前一橋大学長 成城大学教授 杉山武彦

51_big[1]昨年は、一橋大学の前身である商法講習所の設立135周年、そして東京商科大学の国立移転80周年の年でした。それを記念して年内にいくつかの記念行事が挙行されましたが、その最後のイベントが、11月29日に如水会館で開催された記念シンポジウムでした。当日は200人近い聴衆の参加する中、商学研究科の伊藤邦雄教授と、如水会の松本正義理事長の講演、さらには商学研究科の山下裕子准教授の進行の下での講演者両氏のディスカッションが行われ、充実した素晴らしい数時間となりました。そのあとで、私は最後の閉会の挨拶をさせていただいています。翌日に母校を去る私にとっては、ささやかながら、これが学長としての最後の「仕事」になりました。

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 挨拶をあらかじめ用意していたわけではなかったので、型通り、講演者の講演内容を振り返るかたちで若干の感想を述べたように思います。ただ、どういう脈絡からか、数分間の挨拶を終える段階で私が突然に思い浮かべたのは、ほかでもない、晩秋の国立キャンパスのたたずまいでした。そこで、「我が国立のキャンパスはいつどこを見ても美しい。とりわけて今の時期、兼松講堂の右手の銀杏が見事に黄葉して遅い午後の陽を受け光り輝くさまは、心に沁みるほどに美しい。忘れられないほど美しい。そのキャンパスの景色と同様に、一橋大学における社会科学の研究が、後世に至るまで、いつまでも、いつまで美しく光り輝き続けることを願う。」 そのように締め括らせてもらいました。実はその締め括りの瞬間に、植樹会のことが私の頭をよぎったことを覚えています。その「植樹会」という言葉を口にしようかするまいか、一瞬迷って、そこまでは踏み込まずに挨拶を終えました。

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 なぜ植樹会を思い浮かべたのか。それはいうまでもなく、国立キャンパスの美しさと植樹会の存在とが、ここ何年もの時間の経過の中で、私の頭の中に切り離すことのできない関係として定着するに至っていたからだと思います。

いまとなっては、あまり判然と思い出せませんが、植樹会の活動への最初の関与は、私が副学長のとき、石学長に呼び出されて学長室で植樹会の数人の先輩に引き合わされたときでした。たしか、田﨑教授も同席されていました。大学として植樹会の活動を全面的にバックアップするとの方針を、副学長にも伝えて認識せしめるための石学長の配慮であったと思われます。石学長はかねてから「キャンパスを美しくしなければならない」との強い信念を表明しておられました。一方にその石学長の熱い思いがあり、他方に、詳細を知っているわけではないのですが、新生植樹会の新しい理念の提示と緑地基本計画の策定、さらには組織強化の努力があり、それら両者が結びついて、その後の大きな発展がもたらされたのだと理解しています。

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 先般の『植樹会史』に感想を寄せた際にも述べたことの繰り返しになりますが、私は、一橋大学の歴史における一橋植樹会の最大の貢献は、従来には存在しなかった新しいタイプの「オール一橋」のコラボレーションをそれが創り出したという点に求められることになるのではないかと考えます。私の場合、毎年の総会への出席、定例作業へのときおりの参加、卒業生による記念植樹行事への参加を通じて、如水会員、学内教職員、学生の間の心温まる交流と熱意溢れる協働を目の当たりにし、キャンパスにこういう世界が出来上がってきたのだ、という感慨をそのつど深めたものでした。年配の如水会員の元気で楽しそうな活動ぶりは印象的でした。施設課の方々の頑張りが驚異的でした。そしてさらに、学生の溌剌たる貢献は感動的でした。また、執行部が率先しての組織強化の努力には、ただただ敬服でした。一橋植樹会は緑のキャンパスを創るとともに、それにもまして重要なこととして、グリーン一橋の理念を共有するオール一橋ステイクホルダーの学内交流という新しい「場」と「文化」を創りつつある、というのが私の変わらぬ認識です。

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ここに至るまでの間、実質的な貢献を問われると困るのですが、少なくとも、私としては植樹会の活動に対する多大の感謝と敬意の念を持ち続けてきました。今後は、少し立場が変わりましたので、まずは会員の一人として、草の根的な役立ち方ができればと考えます。一方、植樹会が今後さらにどのような発展を志向すべきかということについては、少なくとも、一橋植樹会の活動である以上、そこにはつねに、一橋大学の理念と時代のパラダイムとのつながりと整合を意識し続けることが求められるように感じます。そのような点についても自分なりの努力をしてみたいと思います。会員の皆様方からいただいたこれまでのご厚誼に心から御礼を申し上げるとともに、一橋植樹会の今後の着実な発展を心から願うものです。

総会で挨拶する前学長

総会で挨拶する前学長