筒井泉雄 一橋大学教育研究開発センター長

 2014年6月1日 15:30~16:40

科学のメインフレームを理解してもらうという点から3つの話題を提供
「”文系”から理科を見て、どう取り扱うか」について考えてほしい

基礎:生命の基本
生命は、軽い分子から出来ている。地球生命の誕生から46億年、生命の基本は、炭素、窒素、酸素、水素、燐などの単純な元素から成り立っているが、それは地球がまだ固まっていなかった頃、重い元素が地球中心部つまり底の方に沈んでしまい、地球の表面近くには軽い元素しか残らなかった、という事実に由来する。
人体の細胞の数は、約60億個。生命活動の維持、子孫への生命連鎖は、アミノ酸から作られたタンパク質で行われている。アミノ酸は構造上「側鎖」が違い、測鎖と”繋がり方の違い”がタンパク質の差異を決定している。これが限られた軽い元素から複雑な物を生み出す仕掛けとなっている。
生命は、基本的に1組2本のタンパク質の設計図「DNA」を持っている。その1本ずつを、子が親から受け継ぐことで、遺伝子が子孫に伝えられていく。

第1の話題:血液型
赤血球の上に糖質とタンパクがくっつき、そのまた「てっぺん」についている「糖」の種類の違い(A型、B型、AB型)、によって血液型は出来ている。何もついていないのはO型。(因みに、O型というのは、″何もない”という意味の”0”(ゼロ)に由来する。) 血液学が進んだきっかけは、第1次世界大戦。輸血に由来する。血液は、異質な型を入れると、お互い相手を壊して固まらせるという性質を有するため、戦争の負傷兵が、合わない血液型の輸血を受けて多数死亡した。この解明で滅疫学は発展した。
ABO型以外に血液型として”白血球型”がある。白血球型は、臓器移植の可否を決める時の決め手となっている。(10-20種x4タイプの遺伝子型があり、その中の少なくとも主たる6種が合っていなくては移植不可。)

第2の話題:DNA鑑定
DNAの構造:糖とリン酸と塩基がDNAの基本であり、そのうちの糖とリン酸が”繋ぎのベルト”を作っている。2つのベルトは塩基でゆるく結合されている。塩基には、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4種がある。DNAの塩基は酸が結合できる組み合わせが決まっており(A=T、G=C)、このために劣化のないコピーが作られて、子孫に繋がっていく。このDNAが設計図(遺伝子)となり、必須アミノ酸20種とそれからなるタンパク質を作り出す。
ヒトの遺伝子(設計図)は約2万5千個、タンパク質(部品)は10万個。哺乳類の遺伝子の場合、その約3%だけが「働く遺伝子」(並び方が変化せず突然変異の恐れが少ない)であり、生きていくのに必要な部品を作っている。
残りの97%は働いていない部分である。この働いていない部分を調べることで、DNA鑑定が可能となった。(マイクロサテライト=反復領域、を遺伝マーカーとして用いる。) 20年近く前にDNA鑑定の制度は1/1000(1000人に1人を見分けられる程度)だったが、日本では2年前にDNA鑑定の精度が4兆分の1となった。この精度は確実に個人を識別できる精度であるが、2007年1月にアメリカの裁判で、理論値1000兆分の1とされるDNA型の「偶然の一致」があったことが明らかになり、確率が万能ではないことが示されている。DNA鑑定はあくまでツールであり、100%の証拠となり得ないことに、法を目指す者は留意してほしい。

第3の話題:寿命
ヒトは病気をしなければ理論的には120年生きられると言われている。老化というのは、細胞の置き換え(分裂)が出来なくなることによる。実はDNAの端っこにはテロメアという部分がありそれが、複製の際に短くなっていく。ある程度以上短くなると、複製ができなくなってしまう。この仕掛けが寿命である。
寿命を延ばすには、1)テロメアを伸ばす。2)細胞分裂を抑える。3)新しい組織で全身を置き換える。がある。1)のテロメアを伸ばすことには、DNAの複製の際に起こる劣化(コピーを取り続けると本物からかけ離れてしまう)という危険が伴う。ガンはこの劣化によって引き起こされる。2)の細胞分裂を抑えるため(押さえれば、テロメアの短縮が押さえられる)には、若干の希望がある。赤ワインの成分であるポリフェノールは遺伝子の活動を抑制し、分裂を抑える。これにより、DNAにキズが付くことを抑えられ、寿命が延びるのではないかという研究が進んでいる。線虫、魚類、マウスまでは実験成果が出ているが、ヒトについてはまだ証明されていない。3)の置き換えであるが、医療用として、臓器のクローンを作って置き換えることの研究が行われている。臓器については、今後10-20年で置き換えによる寿命延長が可能となるであろう。ただし、脳細胞を置き換えることができなければ、寿命120歳を突破することはできない。

Q&Aガンの克服について
治療技術は進んでいくだろうが、病気自体の克服には21世紀一杯はかかると思う。これは、ガンの発生要因が一定ではなく、様々な原因によるものであるからである。
ガン細胞は”自分の細胞”であり、自分で栄養を取り込む仕組みを作って生き延びようとする。従って、自分では(免疫作用では)やっつけることが出来ない。サリドマイド症候群の治療薬は、血管を作らせないようにする薬。「血管が出来ないから組織が出来ない」という考え方を応用し、一般のガンについても、サリドマイドで栄養源である血管を作らせないようする治療法が開発中である。